アップサイクルやテクノロジーなど、環境に調和したクリエイションに積極的なフランスのコレクションブランド、Maitrepierre(メトロピエール)が3度目となるDesigual(デシグアル)とのコラボレーションを10月17日(木)に発表した。1回目のコレクションでは、カマキリを中心に生き物のハイブリッド性を表現し、2回目のコレクションでは、ブラックホールからソーラーパンク、ジャガードをデシグアルの起源であるアイコニックジャケットへと落とし込んだ。3回目の今回は「Duality(二面性)」がキーワードだ。デザイナーのアルフォンス・メトロピエールに話を聞いた。
調和のとれたハイブリッドでサステナブルの概念をアップデート
「今回のコレクションでの二面性は、フェミニニティとグランジの融合です。そもそもクリエイティブであることは、二面性であることだと思っています。今回は、デシグアルの持つパンクさと、メトロピエールの持つパリのDNAを、ボレロのボマージャケットやペイントスプレーのジャガードニット、スニーカーソールの先の尖ったブーツなどで表現しました。中でもトレンチコートは絶対的なメトロピエールらしさを持っています。というのも、元々はコラボレーションではなく、メトロピエールのためにデザインされたものからインスパイアを受けたものなんです。構造と仕立てに関しては、ポワレの古いアーカイブからインスパイアされて仕立てました」
彼のクリエイティビティの根源は、自然と化学やサヴォアフェールとハイテクノロジーといったハイブリッドなところ。更にそれを人類と環境、動物や植物など全ての生命体に関連づけて、コレクションに落とし込んでいる。彼らの発想の根幹は、自然との調和をしながら発展する人類のあり方や、それらを拡張させるエネルギーのためのテクノロジーという捉え方があるようで、未来のためのサステナビリティとの強い結びつきを感じずにはいられない。
「サステナブルは、私の全てのプロセスの一部です。ゼロからものづくりをすることが好きで、既存の衣類にドレープをいれたりカットをいれたりして新しい要素を加えます。元々Maitrepierreでもアップサイクルを取り入れていましたが、今はリサイクル生地やデッドストックの生地やレザーを使うことが多いです。そもそもデシグアルとのコレクションは、最初からサステナビリティの基準を満たすことが必須だったんです。エシカルな方法で美しさを保ったままコレクションを披露することができ、誇りに思いますし、サステナビリティの共通した価値観を分け合うことができ嬉しく思います」
LVMHのサポートで高品質なデッドストックを使用
メトロピエールは、2021年にLVMHによって開設されたNona Source(ノナソース)のアンバサダーに就任している。ノナソースは、ラグジュアリーブランドが抱える高品質なデッドストックを、重さやカラー、モチーフごとにデジタルカタログ化して提供する仕組みだ。レースなどのファブリックからレザーなど豊富な品揃えを持ち、登録すればどんなブランドでも購入することができる。特に、ヨーロッパで活動をするブランドや若手デザイナーに、デッドストックのリユースを推奨している。ガレージがフランスにあるため、現時点ではヨーロッパで活躍するクリエイティブなデザイナーのみがリーチが可能だ。
「ノナソースのアンバサダーになることはかけがえない大きなチャンスです。使われなくなった素晴らしい素材へアクセスすることができます。このプラットフォームは若いブランドやデザイナーに適しています。LVMHが行うこの取り組みに参加でき誇りに思うし、もっと多くの大企業がサステナブルを受け入れていくべきだと思います」
哲学的なアプローチで過去と未来を結ぶ
常に新しいテクノロジーを取り入れ、新たな感性を表現しているメトロピエールは、古い映画やカルチャーからの影響も特徴的だ。例えるなら、80年代のデザイナーズブランド。奇抜さや偏った美学がブランドのアイデンティティとなっていたが、マーケティングが選考した現代では当時ほどのエネルギーを感じさせるデザイナーが少ない中、アルフォンスのコレクションからはどこか似たような強烈なエッセンスを感じる。
「コレクションを通してストーリーを伝えたいと思っています。頭の中でキャラクターを作り、そこからビジュアルを構築していきます。今回のコラボレーションでは、力強く大胆な女性、だけど繊細さもあるSF映画のヒロインをイメージしました。各コレクションはひとつのプロセスです。次のコレクションは前回のコレクションの答えのようなものです。過去と未来のことを考えることが好きで、私は、過去から学ぶことで、より良い未来を作ることができると信じています。哲学的なムーブメントにインスパイアを受けますが、自然や人間、テクノロジーが調和した世界を作るという考えが根底にあります。」
小さい頃、祖母に連れられて訪れた庭園ーーノルマンディーにあるクリスチャン・ディオールが幼少期を過ごした場所ーーが全ての目覚めだったそう。この出来事をきっかけにファッションとアーカイブが好きになり、制作活動をする際には必ず古い本やアーカイブに目を通しているという。一見、”古風”と思われるようなことをクリエイションに取り入れ、今の世代が共感できるような作品へ昇華する。過去から未来を作り出すデザイナー、アルフォンス・メトロピエールの見る未来とは。
「希望に満ち溢れています。より良い世界をつくる鍵はわたしたちが握っているということ。暗闇だからこそ見つけられる光があること。それは解決策や新しいプロセスに繋がります。クリエーションと夢を持ち続けるために、楽観的な未来を信じています。」
Maitrepierre designer
Alphonse Maitrepierre
フランス人デザイナーのアルフォンス・メトロピエールはラ・カンブル卒業後、ジャン・ポール・ゴルチエ、シャネル、アクネ・ストゥディオズでの経験を経て、2018年に自身のブランド「メトロピエール」を設立。サステナビリティに取り組みつつ、アートとデジタル視点を融合したデザインを展開。2021年パリ市グランプリ・ドゥ・ラ・クリエーション優勝。パリファッションウィークで注目のコレクションを発表する、欧州ファッション界の新星。
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writer
Atsushi Nakayama
1995年生まれ。高知県出身。アメリカ留学後、オーストラリアでワーキングホリデーを経験。2024年Tender Party参加。サステナブルとファッション関連担当。時々モデル。時々キャットシッター。