ここ数年の間に、メゾン・デザイナーズブランドのユーズド商品を扱うショップは一気に増加した。しかしその多くはブームに乗っただけの大同小異で、これと言って役割を感じることもない。そんな中、「一流のクリエーションを後世に残す」という責務を背負って立つ存在が、メンズセレクトストアのDE CHIRICOだ。ディレクターを務めるのは、選りすぐりのブランドアーカイブを世に送り出すライラが運営するメンズヴィンテージストア「シュール(SURR)」のスタッフを経た鈴木さん。すでにパブリックイメージが確立されたライラ像を、いかに自分らしく発展させるかが課題だという。
「選ぶこと」で物語は顕在化し、価値が再認識される
「DE CHIRICOでは欧州、特にイタリアでの買い付けをメインにしたヴィンテージを展開している。日本において、同じような視点で買い付けを行っているショップはあまりなく、自らで動きながら構成を固めてきた」。アメリカ古着を入口に、モードの世界からも多大な影響を受けたと話す鈴木さんがもっとも興味を抱くのは、80年代初頭にイタリアで生まれた“パニナロ”と呼ばれるサブカルチャーと、それに紐づくヴィンテージアイテム。パニナロは、モンクレールやストーンアイランドといった質の良い欧州ブランドのジャケットに、ティンバーランドのブーツやジーンズなどアメリカの定番カジュアルをミックスしたスタイルを特徴に持つ。
「70年代のイタリアはアメリカ留学が盛んで、その影響から多くのアメリカンカルチャーがイタリアに持ち帰られたとされる時代。また、80年代に入るとイタリア国内にアメリカンスタイルの飲食店が進出するなど、ますますアメリカナイズされていった。パニナロはちょうどその頃に、サッカーチームのサポーターたちの間で流行したスタイル。自分がサッカーをしていたことがパニナロやカジュアルズのようなサブカルチャーに惹かれるひとつの要因ではあるが、なにより、一見なんてことはないようなものでも集うことで個性を発揮するところに魅力を感じる」。
店内にラインナップするのは、80年代から2000年代初頭までを中心にしたユーズドアイテム。ぱっと見はアメリカンカジュアルの無骨な印象を漂わすが、その中身はヴァレンティノやアルマーニ、ドルチェ&ガッバーナなどイタリアの代表的ブランドをはじめ、“イタリア視点のアメリカ文化”によって一貫性が保たれている。「見た目はアメリカ製品と似ていても、素材選びや軽さ、パターンへのこだわりなど、着心地の追求は全くの別物。オリジナルな存在としての魅力が詰まっている」とディレクター自らが語るように、テーラリング文化が色濃いイタリアらしい上質さとアメリカナイズされたムード感のミックスは他に類を見ない。また、イタリア服の代名詞でもあるクラシコに固執しないDE CHIRICOらしいセレクトのファンは国内だけにとどまらず、海外からも足を運ぶほど。
「年代によってそれぞれに癖はあるが、自分の中でデザイナーの力というのは既存にはなかったイメージを作れることにある。そういった意味でもこの時代のイタリアブランドは、クリエーションをガラッと変えてくる瞬間があって本当に面白い。時間を見つけては当時のコレクション資料やランウェイショーの映像などを細かくチェックし、買い付けの参考にもしている」。鈴木さん曰く、ファッションブランドの最新コレクションを見るとDE CHIRICOで取り扱っているようなイタリア発信のアーカイブデザインに着想を得ているとわかるものがあるという。
「過去の優れたデザインは現代、そして未来に繋がっていて、それを扱うこのショップもまた世の中に作用していると考えると、とてもエキサイティング。オリジナルの価値はこれからも変わらずに続いていくのだと思う」。
好きな物事にしっかりと目を向ければ、たとえ意図していなかったとしても好循環に恵まれる。大型チェーン系列のリサイクルショップはあらゆるところに乱立し、古着は“エコ”だの“環境への配慮”だのと、流行り言葉のようでうんざりしている人はDE CHIRICOヘ。ここにしかない色にきっと出会えるはずだ。
writer
本田圭佑
1984年生まれ。古着&インポートを扱うアパレルストアに勤務後、出版社を経てフリーの編集者に。多様なスタイル、カルチャーを文脈にさまざまなメディアで記事執筆やインタビュー活動、企画構成を行う。
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