曖昧な定義のヴィンテージにおいてブレない価値観。それは時の経過を耐え抜く品質の高さにある。80’s、90’sの古着もヴィンテージと呼ばれ始めた現代だからこそ、これから残していくべき古着の価値について、あるいは服そのものの価値について考えたい。
Witty Vintageの店内に並ぶのは、アメリカ古着から西洋のアンティークレースドレス、メゾン・デザイナーズブランドのユーズドウェア──。年代もジャンルも不統一なのにどこか一貫性を帯びた顔ぶれは、まさしく“Witty(機智に富んだ・軽妙)”の言葉通り、来店者の心を躍らせる。「特に気を配っているのはハンギング。構成でWitty Vintageらしさをプラスしたい」とディレクターの赤嶺れいこさん。バイイングを行うのは夫の赤嶺優樹さんで、およそ2ヶ月周期で海外に直接出向く。
「プラスチック製品のようなプロダクト感が強すぎるユーズド製品は扱わない。人気が高いブランドバッグやシューズなどに下されている一定の評価に惑わされず、今後価値が持続していく存在という視点で商品をセレクトしている」。
環境に対する積極的な心がけとアクション
感度の高いヴィンテージスタイルを届ける一方で、環境への配慮を行き届かせている点もWitty Vintageの特徴だ。衣類を洗う洗剤は可能な限り生分解性のものを使用し、保管はケミカルな防虫剤を避けてオーガニックハーブなどで代用している。また、オンライン販売の配送には自社制作したバイオマス度85%の袋を使用し、来店時はマイバッグの持参をSNSで呼びかけている。店舗の電気も再生可能エネルギーを選択しているという。
「すべては、安心して長く着てほしいから。必要に応じてヴィンテージの魅力を最大限に生かしたリペアも施している」と自負心を強く示す。
7年前に開業し、東京・祐天寺に実店舗を構えてから4年が経った今、Witty Vintageは古着の取り扱いのみならず、オリジナル商品の企画・販売にも注力している。リサイクルコットンとオーガニックコットンをブレンドした“アップサイクル”スウェットに、“ボタニカルダイ”で古着を染め直したカラーシャツ。
「ショップ運営を続ける中で、自分達ができることで社会に還元したい気持ちが徐々に強まった。良質なヴィンテージが徐々に数を減らしてきている今、オリジナル商品を作るのならば少しでも環境に優しい生地が好ましいし、それが難しければ売り上げの一部を寄付に回すなど選択肢はいくつかある。サステナブルの本質は持続可能にあって、生きやすい世界をそれぞれがどう作るかが課題。重く捉えがちだが、自らが楽しめて無理なく続けていけることを選択する先に、きっとより良い未来があるのでは」。
Witty Vintageがオリジナルスウェットをあえて“サスティナブルスウェット”と銘打ち、バッグ持参を呼びかけるのは、言葉にしなければ届かないことに気づいたから。現在は、来店者のほとんどがマイバッグを持参してくれるようになったという。バイオマスマークの記載にかかる年間使用料をはじめ、環境に配慮した行動で費やされるさまざまなコストは否めない。けれど、まず行動に移してみることが、その先にある物事への解像度を高めていく。
「私たちは今ある衣服だけで世界が回ればいいとは考えていない。新しい発想で何かを作ろうとする人がいてこそ、工場や職人たちなど生産背景の成長に繋がっている。今後もいかに成長していけるかを中心に据えながら、少しずつでいいから行動していきたい」。
長年に渡り形状を保ち続けるクオリティーの高さと、技術が進歩した現代でも再現しきれない“遺産”としての存在意義を包括した、ヴィンテージの魅力。二次流通システムの発展によって、オンライン上で気軽に古着が売買できてしまう今の世の中は、軽いセールストークのように「ヴィンテージ」が飛び交っている。信頼に足るヴィンテージとは、服の価値とはなにか。ヴィンテージショップの枠を超えるアクション、そして、長く寄り添える存在だけをセレクトする目利きに抱く期待は決して小さくない。
writer
本田圭佑
1984年生まれ。古着&インポートを扱うアパレルストアに勤務後、出版社を経てフリーの編集者に。多様なスタイル、カルチャーを文脈にさまざまなメディアで記事執筆やインタビュー活動、企画構成を行う。
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