ヴィンテージショップとリサイクルショップには、明確な差がある。それは「自らの意志」のもとで「セレクト」しているかどうか。何百、何千という古着の中からこれだと思う1着をピックする作業は、愛なしでは続かない。HOOKEDのオーナー安藤小葉さんは、ヴィンテージファッションやスタイルについて考えを常に巡らせている人。そんな彼女が、インタビュー中に発した「ヴィンテージの楽しさは、続いていくことにある」というひと言には、すべてが詰まっているように感じた。
向き合い方次第で、傷は愛の深さに変わる
過去のデザインや風合いが好きで、質が高いものを長く愛用するという安藤さん。たしかに、昔のウールにせよコットンにせよ、風合いは今の洋服と全く異なる。大気汚染や温暖化が進む現代より澄んだ環境下で作られていたことも理由のひとつだろう。
「コルセットでウエストを締めていた100年以上前のドレスや、見るからに華やかな作りのレースをあしらった洋服などを見ると、言葉にできない気迫を感じる。あるいはメンズのワークウェアのように、目的のために作られた服の削ぎ落とされた武骨さにも惹かれる。作り手のパワーや思いが込められたデザインには時を経ても心に響く何かがある」。
作られた当時には意図していなかったであろう捻れや歪みが表れたディテールを目にして、前の持ち主はどんな気持ちで着てたのかと思いを馳せながら、1点1点と向き合う。
「ストレス発散や付き合いを理由に服を買わず、手放したくなるものがほとんどない。いまだにフリマアプリを使ったことがないのは少し情けなくも思うけど、そもそも幼い頃から物を捨てることが苦手だった」。
ワードローブ同様、ショップで扱う商品のセレクトもこれが欲しいと本心で感じるものだけ。売り手と買い手の信頼関係を育む熱意が、互いの“らしさ”を形成していく。
「ヴィンテージは現代の服と違い特徴的なデザインが多く、どんな姿になるのか着てみないとわからない。どうやって着るか、次はどんなものと合わせるか、ずっとワクワクできるし、そこに新しい世界が待っているような奥行きを感じる」。
HOOKEDは店舗での対面販売がメイン。それは来店者1人ひとりに、洋服を肌で直接感じてもらうことを重視しているからだ。続けて彼女は、自身のアイデンティティを形成したと言える過去の体験についても振り返る。
体感の尊さをファッションに込めて
「幼い頃によく着ていたのは、服好きな父からのお下がりや兄姉の着古し。それは私にとって苦ではなく、むしろ新品の洋服を買いに出かけるよりも嬉しいことだった。実際、父の服はテーラーで仕立てたものも多くて質が高く、子どもながらに魅力を感じていた。誰かが着ていた良いものを着るという心地よい感覚が今も続いていて、もしかすると古着やヴィンテージを通して当時の記憶を追体験しているのかもしれない」。
古着から多くを学んだ安藤さんにとってなによりも響いた魅力は、「着たい服を自由に着ていい」こと。皆と同じでなくてもいい。それが誰かの着古しだとしても、自分の気持ちに正直でいれば洋服はいつまでも楽しめる。
「古着に長く触れてきたことで、今のファッションデザインの引用元や年代がなんとなくわかったりする。新しさを感じさせるデザインというのはすでに出尽くした印象もあるけど、だからといって挑戦せずに安い服ばかりを大量に作る世の中であってほしくはない。ファッションはいつだって楽しませてくれる存在。HOOKEDに足を運ぶお客さんとコミュニケーションを取ると、自分と似た感覚を共有できているように感じるし、意思や目的を持って行動している人もたくさんいる」。
数の少ないヴィンテージが貴重なことはたしか。けれどそれが着る理由にはならない。一方で、世の中に多く出回っているから着てはいけないというわけでもない。見て、触れて、楽しむことができるもの。だから大事に長く着たくなる。自分に正直でい続けることは難しいけど、とても大事な感覚。何を選ぶかの価値観は、自分の中にしかないのだから。
writer
本田圭佑
1984年生まれ。古着&インポートを扱うアパレルストアに勤務後、出版社を経てフリーの編集者に。多様なスタイル、カルチャーを文脈にさまざまなメディアで記事執筆やインタビュー活動、企画構成を行う。
INSTAGRAM