Fashion

2024.11.14

#4_fernwehでは曖昧な境界線に佇む本音に目覚めることができる

photographer SHOTA KONO
stylist SAEKO SUGAI
hair KAZUHIRO NAKA
make-up SUZUKI
model NONO KINOUCHI, AYANO OTAKI, IPPEI TANAKA, MIYU MOTEGI, RISA MAKINO, YUKI NAKAMURA
text KEISUKE HONDA

#4_fernwehでは曖昧な境界線に佇む本音に目覚めることができる

日本国内に海外古着が一気に広まったと言われている世界大戦終戦後。ファッションと古着の結びつきが顕著に表れた90’sヴィンテージブーム。そして混沌の現代──。古着の価値観は時代の変遷とともに変化してきた。ヴィンテージショップ「HAg-Le」と「KALMA」を経て独立し、2023年からコンセプトストア「fernweh」を新たに営んでいる溝口さんもまた、古着の価値観を今に提案する1人だ。
「古着を扱う上で考えていることは、過去の価値を現在にどう転換するか。古着には、誰も見向きをしなかったような存在に価値を見出す面白さがあると思う。自分自身、知らないものを見たい欲求がとても強く、ワクワクする感覚を常に求めている」。

ヴィンテージデニムや、名だたるデザイナーズブランドのアーカイブはいわば教科書的な存在であり、尊敬の対象だと話す溝口さん。だがその価値は変えようのないほどに固定されていて、誰が扱おうと同じこと。新たな価値や興奮は、作り手やブランド、国など、どこのものか分からないようなアノニマスさの中にあるという。
「幸いなことに、自分は古くからある古着屋や先輩たちのやり方を見てきた世代。そして、よりファッション視点のアプローチによって古着屋のあり方を少しずつ変えてきた先駆けの世代。匿名性が高く言語化しきれない存在でも、心に響くものはたくさんある。それがファッションの良さでもあると思う」。
 
fernwehがアメリカで買い付けている古着は主にレディース服だが、来店者の3割近くは男性客。個性的なファッションを純粋に楽しむ、現代ならではの姿勢がそこからも感じ取れる。

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from right: RISA wearing vintage LAPLAUD dawn jacket, dress, shoes by FERNWEH | MIYU wearing vintge SAINT LAURENT RIVE GAUCHE jacket, pants by WITTY | YUKI wearing vintage PIERRE CARDIN cape by LAILA VINTAGE | AYANO wearing vintage MODELE DEPOSE shawl, dress and top by ESMERALDA SERVICED DEPARTMENT | NONO wearing vintage top, skirt, pants by HOOKED | IPPEI wearing vintage ALLEGRI coat, CERRUTI1881 SPORT jamper, DOLCE & GABBANA pants by DE CHILICO

アノニマスな対象によって好奇の本質を見定めていく

fernwehの店内を見ると、ヴィンテージとセレクトブランドの配置がランダムで、ぱっと見は区別がつかないようになっている。これは「曖昧な境界線の中から自然に手にとったものが本当に興味のあるもの」という、実験的かつ本質を突いたメッセージの表れから。さらにもうひとつ、古着と新品衣料を同等に扱う理由に、ファッションの未来に向けたピュアな願望がある。
「90年代以降のファッションデザインは、模倣や引用の繰り返しで新しさが生まれていないように感じる。それに加えて今は、表面的なサステナブルに囚われてしまってもの作りがしづらい社会になっている。上質な古着は、上質なもの作りがあってこそ。クラフトの意匠が宿るヴィンテージ同様、現代の表現やプロセスの面白さに目を向ける必要があると思う。感性を刺激するクリエーションは進んで応援したい」。
 
古着における価値の変換は、無数の中からコレクションを作っていく“作り手”の感覚により近い。一方で「メリル ロッゲ(Meryll Rogge)」や「コウタグシケン(Kota Gushiken)」など新品のデザイナーズブランドの場合、スタイリングや紹介の仕方などで自らのフィルターが入るが、あくまでも作り手の“代弁者”のスタンス。この異なる向き合い方を空間内で調和させ、さらに雑貨類やアート作品、隣接するフラワーショップ「duft」も混ざり合うことで、深みを増幅させたfernwehらしい世界観が生まれている。

「足を踏み入れた瞬間から流れ込む情報は、オンラインでは得られない貴重な体験だと思っている。実店舗を構えることにリスクはあるが、時間やコスト面などを含めてリスクを負わなければ良いものはできないし面白くない」。
 
現代の古着マーケットは、間口が大きく開かれたことで良くも悪くも商業化が進み、全体的なレベルの低下が起こっているのが現状だと話す溝口さん。また、レギュラー古着を中心に扱っていた大手古着屋は次々と姿を消し、リーズナブルに感じていた価格帯が高騰傾向にある中、今後あるべき姿とは。
「古着に関する知識やファッション文脈への関心は、服を好きになったり楽しむための材料のひとつで、誰かに押し付けられるものではない。カテゴリーに捉われず、ファッションを自由に楽しめることがなによりも大切で、その結果、より深い興味や環境への配慮が生まれるのが自然なのではないかと思う。自分たちのコミュニティーを大切にしながら、そういう場を作っていきたい」。

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information

fernweh

#201 1-33-9 umegaoka, Setagaya, tokyo
 
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writer

本田圭佑

1984年生まれ。古着&インポートを扱うアパレルストアに勤務後、出版社を経てフリーの編集者に。多様なスタイル、カルチャーを文脈にさまざまなメディアで記事執筆やインタビュー活動、企画構成を行う。
 
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