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Design / Art

2025.04.30

AtMa X ALLU 実践者達の対話から探るサステナブルの仕掛けと美学

text & adviser: TAKAHIRO TSUCHIDA
photographer: ERI KAWAMURA
 
video
producer: YASUSHI KISHIMOTO
director of photography: DAISUKE HASHIHARA
camera: HAYAO TASHIRO
camera / editor: SUNNY SARI
music coordinator: YUKI FUKUDA
music: JABARA
 
TP_DISCUSSIONとは
デザイナーの仕事や関わる企業との会話を通してサステナビリティ・デザイン・社会をキーワードにディスカッション。視点や立場の違いからヴィジョンやニーズ、これからの展望、次への起点を見いだすビデオシリーズ

AtMa X ALLU 実践者達の対話から探るサステナブルの仕掛けと美学

AtMaは、店舗などのインテリアデザインにサステナビリティの概念を積極的に取り入れるクリエイティブユニットだ。彼らが手掛けたALLU SHINJUKUでは、再生資材の利用や循環的な建築手法を取り入れながら、日本をテーマにした美しい空間が広がっている。経済面だけでなく、次の展望を共有することで、良質なコラボレーションとなったという。AtMaの鈴木良と小山あゆみに加えてALLUを運営するバリュエンスジャパン株式会社から執行役員の井元信樹氏を迎え、デザインジャーナリストの土田貴宏氏とともにこのプロジェクトをビデオとテキストで振り返る。
 

ビデオ【TP_DISCUSSION: AtMa X ALLU 実践者達の対話から探るサステナブルの仕掛けと美学】を視聴

AtMaがデザインしたALLU SHINJUKUの空間と、そこからの展望

新宿三丁目の交差点の周囲には、有名な百貨店や海外ブランドのブティックなどが軒を連ねる。昨年10月、その一角に新しくオープンしたのが「ALLU SHINJUKU」だ。ALLUはプレオウンド(ユーズド)アイテムのセレクトショップで、特にハイブランドの品揃えが充実。扱うものの多くは新品同様で、希少価値をもつものも目立つ。ALLU SHINJUKUでは、それらがサステナブルな要素をそなえた空間に美しく収まっている。

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3階ではバーキンやケリーをはじめとしたHERMES製品が揃っている。1階・2階にはCHANELやLOUIS VUITTONのバッグやジュエリーをはじめラグジュアリーブランドの状態の良いアパレルアイテムも並ぶ(取材時)

この店舗のインテリアを手がけたのはAtMa。鈴木良と小山あゆみが2013年に始めたユニットで、数々の店舗や展示の空間デザインを手がけてきた。またクライアントワークと並行して家具などの自主制作を行い国内外で発表している。こうした活動に一貫するのが地球環境への配慮である。ALLU SHINJUKUのプロジェクトでは、AtMaのデザインアプローチがALLUのショップとしてのテーマと一体になり、4フロアにわたるスケールの大きな空間デザインとして結実した。

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AtMaの鈴木 良氏(右)と小山 あゆみ氏(左)

「弊社はCircular Design Companyとして、不要なモノを捨てるのではなく次に必要な人へとつなげ、より多くの人にその価値を楽しんでいただくラグジュアリー品のリユースをコア事業として、国内外へ展開しています。日本国内では『なんぼや』ブランドで120店舗以上の買取専門店があり、プレオウンド・ブランドショップ『ALLU』は国内に5店舗を展開しています。『ALLU』の店頭とオンラインストアの商品には、『Resale Impact(リセールインパクト)』として、リユースによる環境負荷削減への貢献を数値化しタグに表示しています。CO₂であれば『杉の木の年間CO₂吸収量何本分』や、水であれば『浴槽何杯分』といった身近な換算を使って、弊社が仕入れ、再販したリユース品を購入した場合の環境負荷削減貢献量を可視化しています」と、ALLUを運営するバリュエンスジャパン執行役員の井元信樹は話す。この事例以外にも、同社はきわめて多岐にわたる環境保護や社会貢献に取り組んでいる。
 
「AtMaさんの今までの活動が私たちのコンセプトに合っていると思ってお会いしたのが、ALLU SHINJUKUのデザインを依頼したきっかけです。AtMaさんのつくりたい世界観は私たちの想像を超えるところがあり、ぜひ一緒にやってみたいと考えました。店内にいると自然にサステナブルを感じること。そしてインバウンドの客層も多いため日本のよさを理解できること。このふたつの点を特にお願いしました」(井元)

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バリュエンスジャパンの井元信樹氏(左)

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left: ALLUでは、製品における環境フットプリントの削減貢献量を商品タグに掲載することで、サステナビリティを推進しながら、ユーザーの意識向上を目指している
right: 再生資材や解体後のリサイクルを想定して設計された什器が並び、フロアのガラスブロックは固定せずに用いた

ALLUがAtMaの活動に共感したように、AtMaもまたALLUの取り組みに共感したのだと、AtMaの小山さんは語る。
 
「ALLUさん達のものをただの商品として扱うのではなく、そのストーリーを重視しながら次の人に引き継いでいくという考え方がすごくいいなと思いました」(小山)
  
「内装でサステナビリティを心がけても、実際に販売するものが消費されていくだけだとジレンマを感じることがあります。しかし今回は、商品の循環や環境問題への取り組みなどをここまで体現した企業があることに驚かされました」(鈴木)
 
「その点は逆も然りで、リユース品を販売しているのに店舗の空間ではそれができていないこともありました。AtMaさんのお仕事は、どんな提案についてもそこが常にブレていないのです」(井元)

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循環のメタファーとして「土」を取り入れる

日本ならではの要素を取り入れることも、ALLUとAtMaには親和性があった。特に小山さんは京都の寺院を見て回るのが好きで、人工的な設えと自然との調和のヒントを得ることも多かったようだ。そんななかから空間全体で「土」をキーマテリアルとして使う発想が生まれた。「経済圏における循環の核のような役割を果たすALLUを、地球環境における生態系の核である土に見立てた」のだ。
 
「エントランス付近に置いたテーブルも、土を固めて焼いたものを積み重ねました。土の表情をはっきり出した素材感を重視しています。また壁面の左官材や、茶室などに使った和紙にも土を混ぜてあります」(小山)
 
「土の壁には不安がありましたが、通常の壁に比べて補修しやすいと説明してもらい納得しました。使い続けることを前提に素材が選ばれているのです。2階のガラスの床もそうですね。接着剤を使わずにガラスのブロックを並べているので簡単に再使用できます」(井元)

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1階は枯山水をモチーフに、土のテーブルや伊達冠石の什器を点在させ、訪れた人が回遊しやすいようにした。2階は池泉庭園をモチーフとし、中央部分のガラスの床は池のイメージで設えている。さらに窓の向こうに見える街並みを借景として捉えた。
 
「この店舗では、ひとつ一つの素材や技術について説明しきれないほどの意味があります。すべてにメッセージを込めてデザインさせていただきました。店内に置いているコンテンポラリーデザインの家具も同様です。ALLUさんがものにストーリーを込めているように、それぞれの作品のコンセプトが商品と共鳴し、何かを伝えられたらと思いました」(小山)

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窓の向こう側に見える伊勢丹新宿店 本館7階にある買取・引取ご相談窓口「i’m green (アイム グリーン)」 では、バリュエンスジャパンが査定・買取業務をサポートしている

たとえば1階のメインカウンター奥の壁面には、ベルギーのベン・ストームスによる大型のオブジェ「In Hale」を設置した。四角いクッションの形をミラー仕上げのステンレスによって再現したアートピースだ。独特の作風は、素材に対する新しい気づきや従来と異なる見方を促してくれるという。同じく1階にあるハイスツールは、オランダ在住のSho Otaによる作品で、廃材などから切り出した小さな木片を組み上げてある。2階には日本のwe+によるスツール「Refoam」が置かれた。通常であれば複雑なプロセスを経てリサイクルされる発泡スチロールを、デザイナーが自らの手で家具へと生まれ変わらせたものだ。
 
「お店ができあがったら終わりでなく、この場所で過ごす人に後々まで何かを感じてほしい、考えてほしいという気持ちから、こうした家具を提案しました。完成後に僕らが感動したのは、この店舗のコンセプトからディテール、家具などすべてについて、ALLUさんのスタッフが勉強する機会をつくってほしいと言われたこと。知人がALLUに来たとき、実際に詳しく説明してもらったと聞きました。やろうとしても簡単にできることではありません」(鈴木)
 
「勉強会ではスタッフのみなさんが熱心に質問してくれて、ALLUの活動を他人事でなく自分事にしているのだと実感しました。みなさんにもこの空間を好きになってほしいし、メッセージがどんなふうに広がっていくのか楽しみです」(小山)
 
「この店舗のデザインについて勉強会をしたいというのは現場から出た提案でした。ALLUとしての姿勢がスタッフの行動に反映されているのは私としてもとてもうれしいことです」(井元)

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B1Fには金沢を拠点に活躍する原嶋亮輔の桐簞笥と蘭間のキャビネット、2階にはwe+の廃棄された発泡スチロール作品「Refoam」

長期的視点がもたらす価値の転換

互いへの共感から始まったALLU SHINJUKUのプロジェクト。そのゴールを両者が同じように設定できたことから、すべてが順調に進み、相乗効果が生まれていったという。特にAtMaにとっては、通常のクライアントワークではなかなかできないことまで実現できた。そのひとつはリサイクルした石膏ボードを100%採用したことだ。石膏ボードは店舗内装の下地材としてきわめて一般的な素材だが、ほとんどリサイクルされていないそうだ。外からは見えない部分だからこそ、取り組みの真剣さが伝わる。店内では内装材の約94%に天然素材やサステナブル素材(環境や社会課題に配慮した素材)を使用した。

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「石膏ボードのリサイクルには手間とコストがかかるので、どうしても新品より価格が高くなってしまいます。そのため使うケースが限られ、供給が安定しない課題もあります。店舗のインテリアは限られた時間で進めなければならないので、使用するのが難しいんです」(小山)
 
「インテリアの仕事は、オープンの4~5か月前に依頼をもらうことが多く、最初の1~2か月でデザインを考えて、1か月で見積もりをとり、最後の1か月で工事を進めることになります。すると材料の調達にかけられるのは1か月程度。内容をふまえて素材をリサーチする時間はありません。僕らはメーカーの品番のついた材料を基本的に使いたくないと考えています。量産品の効率のよさは理解しているけれど、サステナビリティという点では矛盾が出てしまうこともあります」(鈴木)
 
ALLU SHINJUKUの場合は、店舗のオープンまでに時間の余裕をもらったことで、素材の選択や調達を十分に検討できた。さらには、材料の発注や施工も効率的に進められたという。一方、こうした取り組みを普及させるためには、行政や業界によるルールづくりが欠かせないと、AtMaのふたりは話す。

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「経済面だけで判断していると、サステナブルはどうしても表面的なコンセプトだけになってしまいがちです。長期的に考えたらこうすべきということを説明すると、ALLUさんはすべて理解してくれました。だからロスが少ない空間になっています」(鈴木)
 
「今回は、自分たちがものづくりをする上で、いつもはできないレベルの試みができました。この経験は、これからの活動を考えるためにとてもいい機会になったと思います」(小山)
 
「AtMaさんはALLUのメンバー以上にALLUのことを考えてくれたと、私たちは感じています。もうALLUについては何でも説明できるでしょうね。そんな関係から、この空間ができあがったのではないでしょうか。相互の掛け算でしか生まれないものがあると気づかされました」(井元)

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循環型のビジネスモデルを標榜する企業と、サステナビリティについて十分な知見を併せもつデザイナー。ALLU SHINJUKUのインテリアは志を同じくする両者のコンビネーションによって実現した、きわめて恵まれたプロジェクトであるに違いない。つまりそのまま他のケースに生かすことは難しいだろう。しかしコンセプトにおいても、ディテールにおいても、部分的に応用できそうな点はいくつもある。こうした活動はやがて植物の種(たね)のように発芽し、時間をかけて広がっていくかもしれない。そんな希望を、この空間のあり方は感じさせてくれる。

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information.

ALLU SHINJUKU

add. 東京都新宿区新宿3丁目1-20(メットライフ新宿スクエア)
営業時間:11:00~21:00
 
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クリエイティブユニット

AtMa 鈴木 良/小山 あゆみ

2013年にクリエイティブユニットAtMaを共同創立。アパレルやレストランなどのウィンドウや店舗のデザインを行う。自主プロジェクトとしてサステナブルを追求した表現活動やスペースの運用も行っている。
 
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バリュエンスジャパン株式会社

執行役員 井元信樹

バリュエンスジャパン株式会社が運営するブランドリユース品を取り扱う「ALLU(アリュー)」の事業責任者。ビジネスによって持続可能な社会の実現を目指す。大阪の心斎橋に2店舗、東京の銀座・表参道に続いて、2024年10月に新宿三丁目にオープン。
 
WEBSITE

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デザインジャーナリスト・ライター

土田貴宏

家具、インテリア、日用品などのコンテンポラリーデザインを主なテーマとして、専門誌やウェブメディアに寄稿。展覧会のディレクションなどを行うほか、デザイン誌『Ilmm』のエディターを務める。著書に『デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビュイーズ』(2021年、PRINT & BUILD)ほか。
 
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