水原希子が率いるクリーンビューティブランドのkiiks(キークス)が、女優・モデルとして活躍する傍ら、サステナブルなライフスタイルブランドSTUDIO R330のファウンダーを務めるローラとのコラボレーションを発表。1月に行われたエキシビションでは、古い日本家屋のスペースを一般に開放。茶の実油の原料となるお茶の実や調香に使用された植物の原料をはじめ、薩摩つげ櫛、竹水フェイスミストやハマナスのローズバームとともに美しいヴィジュアルを展示した。
白檀やジャスミンを貴重としたコラボレーション「グリーンティーシードヘアオイル」の香りが充満した室内では、ネロリハーブによる植物療法のワークショップも開催され、植物の持つ強さや整える力を伝える機会も創生。大自然の恵みで美しさと幸せを共有しながら、その感謝を自然へと還元する、ブランドの世界観を詰め込んだインスタレーションが共感とともに日本中にバイラルしていった。

kiiksは鹿児島県の南大隅町にある「ボタニカルファクトリー」とパートナーシップを組んでいる。「口に入れるものと同じ原料でなければ」という理念から、植物エキスの抽出やハーブウォーターの蒸留など、原料の製造までも手作りで行い、自然由来指数100%にこだわり、(注釈:ISO16128に準拠)、合成界面活性剤を使用しない「肌の力を自分の力で取り戻す」ための一貫したものづくりを徹底している。しかし彼らはただ、肌に良いだけのものを作っているわけではない。
kiiksデビューアイテムの「ハマナスローズバーム」は壊血病の予防に利用してきたというアイヌ民族の風習へとルーツを遡り、衰退化された民族文化の復興へと大衆の関心を集めるだけでなく、ビタミンやポリフェノールの持つ効能をもとにした香り高いバームをつくることで日本古来の農業の継続に貢献している。
「グリーンティーシードヘアオイル」は耕作放棄された鹿児島県錦江町の盤山地区にある茶畑から収穫した茶種子油をブレンド。ここには、第二次世界大戦の混沌の中、与論島から命からがらたどり着いた人々が茶畑で生計を立てたという歴史がある。多分に漏れず農業従事者の高齢化や後継者不足という現在の日本が共通して抱える問題に対して警鐘を鳴らしながら、実際にプロダクトを通して農地を再生するというリジェネラティブな方向へと力強く歩みを進めている。

茶の木の種子から抽出した美容オイルをホホバ種子油やツバキ種子油とブレンド。髪や頭皮をすこやかに保ち、毛髪に艶、ハリ、潤いを与える効果も期待される「グリーンティーシードヘアオイル」
モデルから女優として活躍の場所を広げ海外に居を構える水原希子とローラには共通点が多いことから、親密な関係を築いてきたという。ファッションをベースにしながらより良い環境や居心地を見つけるために自分自身はもちろん、社会の問題に向き合い、解決のために真摯に学びと努力をしながら実践をしてきた。異例の規模で街を飲み込んだLAでの火事から避難し、一時帰国していた2人に話を聞いた。
コラボレーションの経緯をお聞かせいただけますか
水原希子さん: 大切なことを素直でポジティブな言葉で発信しているローラちゃんにいつも感銘を受けていて、私からアプローチしたんです。食の大切さやハートが地球と全部つながっているといったことや地球環境や気候危機のこと、そしてご自身でもブランドを運営したり手作りコスメを作ったりしているのを見ていていました。去年、LAに引っ越したときにゆっくり遊ぶ機会があり、色々と自分たちの心の深くまで話をすることができたんです。それからも手料理を振る舞ってくれたり、自分で調合したヘアオイルを使わせてもらったりしながら、日本のことや環境のことを一緒にやっていきたいね、と話していました。今回、工場の方からお茶の実の話を聞いたときに、彼女の素晴らしい香りのオイルをぜひkiiksでプロダクトにして欲しいと思ったんです。
ローラさん:2人とも見ている方向は同じだから、すごく意気投合したよね。希子ちゃんがやっていることに100パーセント 共感したし、アート的でおしゃれなセンスも兼ね備えている人だから。実は私、希子ちゃんがこのブランド始める前から、コスメとかやったらいいのになって感じていたの。私が感じていたイメージが繋がってることもそうだし、希子ちゃんが心から自然や地域だけじゃなく、地球環境に対して真面目に素直な気持ちで表現したり、言葉にしていることがかっこよくて、すごく共感しているから、こうやって今回声をかけてくれたことがすごい嬉しかった。
耕作放棄地や竹害の問題といった意志を持つプロダクトでありながら、竹のミストは4〜5月の20日間だけ取れる「神水」と呼ばれる特別な水を使うなど感性に訴えかける特別な背景を持っているのが特徴的です。ブランドとしての特性をどのように捉えていますか?
希子:お茶の実は、椿に匹敵するくらいすごく良いオイルなんです。でも馴染みがないのは理由があって、通常のお茶栽培では、お茶の花が咲き実になる前に若い葉を摘んでお茶として出荷するからなんです。つまり、お茶の実を収穫するためには、あえて茶葉を摘まずに放置する必要があるんです。そうすると花が咲き、実がなりますが、その時点でもうその茶葉はお茶として出荷できなくなります。

鹿児島で育った、薩摩つげを使用し職人による伝統的な技法で手作りされたつげ櫛。お茶染めしたリネンケースは一つひとつ表情が違う「kiiks薩摩つげ櫛 お茶染めケース入り」
現在、日本では高齢化などで多くのお茶畑が放棄されてしまい、管理されない状態になっています。この耕作放棄地問題に焦点を当て、私たちは新たな価値を見出したいと考えました。放棄された茶畑からお茶の実を収穫し、希少なオイルを抽出することで、農地の有効活用と新たな農業従事者の創出につなげたいんです。
お茶の実オイルは採油率も低く一般流通が難しいぶん、特別な価値があります。このプロダクトには、日本の農業問題に対する象徴的な意味も込められているんです。耕作放棄地だけではなく、日本には竹害や高齢化、後継者不足などの問題が山積みで、農業や伝統工芸をはじめとした土着の文化が衰退しています。
この現状を私が知ったからには、多くの人に知ってほしいと思ったんですよね。竹は成長が早く、浅く根を張るため管理が追いつかないことも教えていただきながらも、そういった問題に働きかける一石二鳥のプロダクトを作れるのがすごく良いなと。私は芸術的なものが好きなので、工場の方々の知見に、自分たちのクリエイティビティやみんなからの協力を乗せて作っています。創造性の力でこのプロダクトをクールだと思ってもらい、色んな人たちに使ってもらいたい。ビジュアルやパッケージはもちろん、中身の透明性や役割といったデザイン性にもこだわりながら、エシカルだけを求めているわけではない人の手にも届いて欲しい。そしてkiiksをきっかけに自然と人が繋がったり環境問題を知るきっかけになったら良いなと思っています。
耕作放棄地からのプロダクトという特性上、生産工程で難しい部分も多いのでは?
希子:放棄地ではあらかじめ採取量が予測できないのことが一番大きいですね。事前に容器を発注することができないのでどうしてもコストが上がってしまう。ロットの問題をクリアするために色々と試したりしますが、ガラスの容器に反応しないかどうかの試験などを行う必要もある。植物から抽出した原料のみで作られた完全自然派コスメなので、使用期間が1年半くらいと短いんです。外国からも売って欲しいと嬉しいお声をいただくんですが、各国のレギュレーションが違うのでなかなか思うように行かなかったりします。
一つひとつの問題を丁寧にクリアしながら、まだkiiksをはじめて1年未満なんだから、と自分に言い聞かせて、とにかく続けることが大切なので急がず焦らず頑張っていきたいと思っています。

鹿児島県錦江町のボランティアの方々と一緒にお茶の実を摘んでいました。実際に行ってやることの重要性はどのように感じましたか?
ローラ:実際に経験することで心から伝えられるし、気持ちもそのプロダクトに表れると思います。一緒に摘んだ人たちの顔も声も浮かぶよね。目には見えないけど、みんなで作り上げた1日の経験が詰まってるって素敵なことだなって思う。みんなで一緒に同じ方向を向いてるということも自分たちのモチベーションにも繋がる。ありがとうと言われたけれど、こちらこそありがとうっていう気持ちで会えた嬉しさと地球を良くすることに繋がる、ハッピーが2倍3倍になる特別な体験でした。

ボランティアの方々とのお茶の実収穫の様子
©BOTANICAL FACTORY
展示会場に入るなり、とにかく華やかな花の香りで晴れやかな気持ちになりました。香りへのこだわりは強かったのではないでしょうか。
希子:鹿児島の工場に実際に行って決めることにしていたんです。シンプルな原料で行こうと決めて、現地でローラがこれとこれとこれ、っていう感じで直感的に選んだんです。普段からやっているせいかすごく選ぶのが早くて、kiiks史上最速で出来上がりましたね。
ローラさんはブランドSTUDIO R330を通して環境問題などさまざまな問題に向き合ってきました。発足から4年経過しましたが、現在の心境や動きはいかがですか?
ローラ:思っていたより簡単じゃなかったし、思い通りに行かないこととかも結構あったりしましたね。思い通りにやろうとするとお金がかかりすぎちゃったりして、一度背を向いた時もあるけど、諦めずにしっかり向き合って受け入れて、また一歩進むために試行錯誤してきました。
いま、大きな会社の人たちが少量でも受けてくれるように変わり始めてから少し希望の光が見えてきたところなの。活動を通して支えてくれている周りへの愛をすごく感じたことと、自分の心の癖に向き合えたことも大きかった。
私自身の作りたい世界観に少しずつでき始めてきているからすごくワクワクしてる。もう少し和の要素を入れることや食についても勉強をしているので、このワクワクをもっと広げたいな。

希子さんは、これまでパーソナルでありながら業界に共通した問題に対して勇気ある声を上げてきました。また、配信番組でクリエイティブなコンテンツ発信をしたり、幅広い価値観を広げるスポークスマンのような存在となりました。弱者や混沌のなかで迷える子羊たちの支えになり、光となっている。自由で等身大でありながらグローバルでありローカルであるご自身の存在や役割について考えることはありますか?
希子:大それたことを言えるわけではないです。このkiiksも本当にいろんな人の協力があって成り立っていて、私1人では絶対にできていないこと。でも、自分の使命は勝手に巡ってくるんですよね。とにかく私、いろんなことに興味があるんです。音楽や芸術、自然、それ以外も自分でもたまに手に負えほど。だからこそ、いろんなところにいろんなお友達がいて、みんなが繋がってくれる瞬間とか一緒に何かできる喜びがある。それを感じて初めて自分が生かされるという感覚があるんです。役者も誰かができるよって導いてくれたからやるようになりました。
直感のまま自分が心地いいなって思うことや、やりたいなって思うことを続けてきた結果なので、役割は死ぬ前に分かるのかもしれないですね。これからも今まで通り人にお世話になりながら、自分のできることその都度やって感謝し合って、それが広がって行けばいいなと思ってます。コロナ以降、どんどん世界が広がっているので、このまま行けるところまで突っ走って、日本の魅力を世界に伝えるとか、地球環境に対して良いことをやっていきたいです。ローラとも、ともに手を取り合うことでより多くの人に伝えることができると思うので、より大きなプロジェクトをどんどんやっていきたいと思っています。
希子さんが10代の頃から一緒にお仕事をさせてもらっていましたが、当時から自分らしさをすごく大切にしてこられましたよね。SNSでのマネタイズが本格的になったときもその潮流に乗らないと話していたのが印象的でした。また、事務所を抜けて個人事務所Office Kikoを設立して……と、等身大を貫きながら国内はもちろん、グローバルに認められ続けている。今回のショーケースもファンの目線で喜びを共有するOFFICE KIKOらしく、人々をオープンに呼んで分け隔てなく発表するとても愛を感じる手法でした。
希子:SNSでピザをあげればバズるって言われたときね、嫌だ!って思ったのを覚えています(笑)。私、そもそも有名人になるって本当に思ってなくて。単純にモデルの仕事が大好きだっただけで芸能人になることを全く目指してもなかったんです。でもたまたまその道が『ノルウェイの森』をきっかけに開いていくことになって。でも私自身はクラブが好きで、渋谷とか原宿で遊ぶのが好きで、古着が好きで…みたいな タイプだし、そこは今も変わっていなくてそのまま存在してる。とにかく生きづらくなるのだけが嫌だったから。普通にクラブで遊んだり買い物に行ったり1人で歩きたいからうまくすり抜けてきたんですよね。

あえて生きづらくならないような選択をして、自分のコンフォートゾーンを広げてきた。
希子:昔、事務所に入ってる時、ちょうど役者の仕事をやり始めた頃に「彼氏と別れろ」って言われたことがあるんです。役者としてはもちろん、人生経験も未熟だったので、私はいろいろな経験を積んだほうがいいかなと思って事務所を辞めることにしました。それは彼氏を取ったと言うわけではなく、役者を続けるためにも様々な選択があるんじゃないかと考えたんです。人それぞれの生き方を選ぶべきだと考えたときに、責任を取らなきゃいけなくて大変になるかもしれないけれど自分はこっちに行くべきだ、と感じたんですよね。
ローラ:私も、プライベートで男性の面影が見えると、事務所も守ってくれようとするあまりに距離感が近すぎて私もわからなくなることもあったな。一時期、自分を失っちゃった時があった。
希子:カラコンして髪を染めていた頃、鏡に映る自分の姿を見たときに自分がわからなくなっちゃったことがあったって以前話してくれたよね。

求められるローラ像を演じすぎた?
ローラ:ナチュラルにしていたんだけど、どんどんわかんなくなっちゃったんだよね。楽しかったんだけど。いろんなことが重なって、ある日朝起きた時に、ワクワクしてない自分に気づいたんだよね。安定安心のところに今自分がいると思ったら、飛び出すしかないって思いっきり海外に飛び出したの。それから、自分の心を見つめることから始めて、鬱っぽくなってるものも直さなきゃ、って。自分が誰なのかわかんないからとにかく運動していたらどんどんポジティブな気持ちになっていたの。
最近はもう髪の毛を染めることもやめて、ありのままの自分をどんどん1年ごとに好きになっていって、自分への愛が深くなってる。今は海外にいるお友達ともナチュラルに喋れるようになってきたし余裕が生まれてきました。おかげで自分以外にも目が向いて、地球環境を守っていきたいとか何かを助けたいというギブの気持ちをシェアしたいと思うようになりました。自分をちゃんと愛することで人に与えられるんだなっていうことは学んだかもしれない。

最前線で活躍するお二人に様々な現場で環境や人への配慮を感じたことがあれば教えていただけますか?
希子:映画業界でもインティマシー・コーディネーターという職業が注目されるようになったことです。是枝裕和監督が率いる日本映画監督有志の会でも取り入れられることにつなげることができた。すごく傷ついた経験だったけれど、日本の映画業界に問題をひとつ提起することができて、今ではNHKでも起用する時代が来たというのは、私にとっては本当に嬉しいことだなと思っています。
ローラ:今、ロサンゼルス火災があったでしょ。すごく大変な事が起きている一方で、SNSのおかげで、ボランティアの情報も広がってますよね。最近私がはっと思ったのが、お家を失ってメイク道具や生理用品、下着もなくなってしまったというティーンエイジャーの女の子に対して、女の子たちだけで集まって作られたボランティアがあったんです。同世代の同性のサポートがあるって、自分だったらものすごく安心するし、モノを配布するだけじゃなくて心のケアにもつながるということがすごく大切だなと思って。話ができたり一緒に笑い合ったり気遣うことができる今まで見たことない素敵なボランティアで、新しいムーブメントなのかなと思いました。
希子:やっぱりこれからは本当に、もちろんスピード感もすごく大事になってくと思うんですよ、こういう今抱えてる社会問題に対してみんなでどんどん 一緒にやっていくことがすごく大事だと思ってます。私達は、同い年で同業者、そしてハーフというアイデンティティに対する悩みなど共通する部分もたくさんある。これからも相談し合いながら、どんどん大きなムーブメントにしていけたら良いなと思っています。
ローラ:希子ちゃんとまたこうやって今色々繋がって共有できていることが、私のモチベーションになってるのを感じる。ワクワクをもっと広げていきたいね。


モデル・女優・STUDIO R330 クリエイティブ・ディレクター
ローラ
東京都出身。バングラデシュ人の父と、ロシア人の血を引く母を持つ。日本に生まれ、幼少期をバングラデシュで過ごす。高校生のときにスカウトをきっかけに、モデルとしてデビュー以来、タレント·歌手·女優としても活躍。2016年にはハリウッド映画『バイオハザード: ザ・ファイナル』に出演。自身で立ち上げたライフスタイルブランドSTUDIO R330ではクリエイティブ·ディレクターも務める。
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