Fashion

2025.02.22

日本ファッション界の要。真正な帽子の概念を作るKIJIMA TAKAYUKIの技術と精神性

photographer:JUN YASUI
stylist:JUNKO KOBASHI
hair:WAKA ADACHI
makeup:NAO YOSHIDA
model:ALEX STEIN
text: LUNA YAMADA

日本ファッション界の要。真正な帽子の概念を作るKIJIMA TAKAYUKIの技術と精神性

帽子を被っている自分が、なんだか好き。そう思えるのは、その帽子が機能ではなく、ファッションのために生まれたものだから。KIJIMA TAKAYUKIは、まさにそんな帽子を作り出す、MADE IN TOKYOのハットブランドだ。彼らは環境や労働に関する問題に軽やかに向き合いながら、装うという普遍的な楽しみを、私たちの頭上に届けてくれる。

KIJIMA TAKAYUKIのエフォートレスな魅力

デザイナー木島隆幸が、日本のオートクチュールハットの第一人者である平田暁夫氏のもとで修行を終え、自身のブランドを立ち上げたのは1994年のこと。そのハットブランドから2013年に木島が独立、現在のKIJIMA TAKAYUKIに至る。
 
つまり、前身のブランドから数えると30年以上の歴史を持つ老舗であるが、ファッションブランドとのコラボレーションをきっかけに最近KIJIMA TAKAYUKIを知った、という方も、意外と少なくないかもしれない。例えば、UNDERCOVERやMame Kurogouchi、ARTS&SCIENCEなど。こだわりの強いファッションデザイナー達からの信頼の厚さを見るに、今もっともファッション界に支持されているハットブランドと言っても過言ではないのではないだろうか。
 
KIJIMA TAKAYUKIがファッション界に愛される理由に、そのエフォートレスな魅力が挙げられると思う。木島がデザインにおいて大切にしているのは、それ単体で完成するのではなく、ファッションありきで完成する帽子だ。例えばエレガントなクラシックハットなど、それだけで美しいオートクチュールも世の中には存在するが、KIJIMA TAKAYUKIの帽子はそうじゃない。徹底的に計算された上でたどり着いた、究極の自然体。だからこそ、気負わず被ることができ、様々な洋服との相乗効果を生み出す。
 
また、高い技術によって実現される被り心地の良さも、KIJIMA TAKAYUKIの魅力のひとつ。一部の帽子は代官山にあるアトリエで、木島を含む職人たちの手仕事によって生み出されている。デザイナー自身が実際に生産にも携わるファッションブランドは、かなり稀だ。土台にあるオートクチュールハットの精神が、ファッションと融合することで、KIJIMA TAKAYUKIの無二の世界観は作られている。

answer It - 未来の手仕事を体現するアップサイクル

KIJIMA TAKAYUKIにはシーズンコレクション「MAIN LINE」の他、「HIGHLINE」「answer It」という3つのラインがある。その中で特に私たちが注目するのは「answer It」。“未来の手仕事を体現するアップサイクル”プロジェクトだ。
 
2021年秋に始動した「answer It」がスペシャルなのは、それらの帽子がすべて異なる一点ものとして、現代の職人の手で作られているという点。木島がこれまでに集めてきたユーズドのハットやデッドストックの材料を活用し、現代的な解釈によって新たな命を吹き込む。どこか空気の重みを感じるのは、素材が内包する個人的、あるいは歴史的背景への敬意が込められているからだろう。それは過去の優れたクリエイションへのanswerであり、現代を生きる私たちが求めるファッションへのanswerなのかもしれない。

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OFF SHOULDER DRESS, SHOES | GIA STUDIOS
TIGHTS | WOLFORD
HAT | KIJIMA TAKAYUKI

帽子を通じて考える、未来のこと

また、KIJIMA TAKAYUKIは「answer It」に限らず、企業としてのサステナビリティ目標に廃棄物の削減とリサイクルの促進を掲げ、日々の実践を重ねている。具体的には、エコフレンドリーな原材料の選定と廃棄物の最小化。またローカルでの生産を基本とすることも、余計な輸送や大量生産による環境負荷を抑える努力の一環である。さらに、製品寿命を延ばすためにメンテナンスや修理サービスを提供し、一つの帽子と長く付き合うことができるシステムを築いていることも、ユーザーには嬉しい特徴だ。
 
そしてKIJIMA TAKAYUKIの目指すサステナビリティは環境面だけでなく、労働環境や社会的責任にも。例えば、フレックスタイム制度やオープンドアポリシーの導入、またダイバーシティ推進やハラスメント教育などにも意欲的に取り組んでおり、社員が働きやすい環境を整えることで、持続可能な労働環境を実現しようとしていることが窺える。
 
KIJIMA TAKAYUKIの取り組みに見られるように、ファッションにおけるサステナビリティとは、エコ素材を使うことだけではない。使い手が長く愛せるものを、作り手が長く生み出し続けること。それは、ファッションの消費スタイルそのものを変える試みと言えるだろう。
 
MADE IN TOKYOのサステナブルなクリエイションは、きっと確実に、未来へと繋がっていく。KIJIMA TAKAYUKIというブランドは、プロダクトだけでなく企業の在り方も、未来を感じさせるポジティブな魅力に満ちているようだ。

KIJIMA TAKAYUKIが頭上に届ける装う楽しみ

ファッションにおける帽子って、なくても困らない存在だと思う。コーディネートを組む時、足し算引き算の対象になるのは大抵帽子などの小物だし、その結果「やっぱりやめた」と家に置いていくことだって少なくない。そんな中でKIJIMA TAKAYUKIの帽子は「やっぱりなくちゃ」と思わせてくれる魅力がある。特別なデザインではないかもしれない。しかしそれは日除けや防寒といった機能的な理由を超えて、ファッションに必要な帽子なのだ。
 
帽子を被っている自分が、なんだか好き。KIJIMA TAKAYUKIが私たちの頭上に届けるのは、そういう至ってシンプルな、装う楽しみである。
 
だから明日の「いってきます」も、KIJIMA TAKAYUKIと一緒に。自分のファッションにマッチするとっておきの帽子を被って、わくわくする方向へと出かけよう。

【出展】
https://www.honeyee.com/detail/95172
https://kijimatakayuki.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=2493626
https://e.usen.com/encoremode/interview/kijima-takayuki10.html

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writer

山田ルーナ

芸術大学の音楽科を卒業後、文筆業を開始。ウェブメディアを中心に、コラムやエッセイ、インタビュー記事などの企画・執筆を行う。良くも悪くも興味の幅が広い性格から、クラシックピアノをバックグラウンドに持ちながらも、実は音楽についての記事はあまり書いたことがない。
 
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