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2025.01.01

漁師達と手を取り持続可能な海を目指し守る。UMITO Partnersがつなぐおいしい関係

photo by UMITO Partners
words by YUKA SONE SATO

漁師達と手を取り持続可能な海を目指し守る。UMITO Partnersがつなぐおいしい関係

いつでもおいしい魚が獲れる豊かな海。いつの日からか変わってしまった海の姿をヘルシーに戻すために奔走し、4年目を迎えるUMITO Partnersという会社がある。海で働く人達を通じて海洋問題に向き合いながら、データに基づいた持続可能な漁業へのシフトを日本全国に促す。街に戻ると、美味しくて安全なめぐみを東京のこだわりあるレストランへと繋げていく重要な橋渡し役となる。欧米を旅しながらヒッチハイクやバックパッキングで8年間大自然に向き合ってきた代表の村上春二氏だから目指せる「ウミとヒトとのポジティブな関係」とは。

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「海洋で起きている問題は?」と聞かれてなにが思い浮かぶだろうか? プラスチックゴミが浮遊する海で破棄されたネットなどゴーストギアを首に巻き付け、お腹をゴミで膨らませて餓死している生き物たちの動画はショッキングだがそれだけではない。
 
豊かな海に囲まれた日本だが、日本の漁獲量は40年間で3分の1以下に減少しているという。原因はさまざまだ。気候変動による海面温度の上昇は世界中の魚の回遊ルートを大きく変え、次なる自然災害を次々に巻き起こしている。沿岸開発、ウニやアイゴなどの食害が複雑に連動した結果、藻場をはじめ魚が育つ環境が過去10年間で約70%も激減し、生態系は崩壊していく一方だ。日本のEEZ(排他的経済水域)は、世界の海洋生物の約14%が生息している生物多様性ホットスポットのひとつでもあるが、過去50年で68%もの陸・川・海の生物多様性が減少しているという。さらに、世界の海では現在でも密漁などの違法漁業がまかり通り、2015年では輸入した天然水産物215万トンの24~36%がIUU(違法・無報告・無規制)漁業と推計されたこともあったという。規制を含めて安全な漁業を守るための法律は古く、対策を講じるためのデータも乏しい。いつしか生活様式が土着の風土から遠のき、人々の意識から自然への敬意が薄れてきてしまった結果、海と街に大きな隔たりができた。後継者なく高齢化する漁業の現場は衰弱しきっている。

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自然を良くするために存在する。村上青年の決心と歩み

そこで立ち上がったのがUMITO Partners創立者の村上春二さんだ。村上さんは、サンフランシスコ州立大学を卒業後、南カリフォルニアのハンティントンビーチに3年滞在していた。合計8年間の間にヨーロッパ一周、アラスカでのヒッチハイクとバックパッキング、アメリカのヒッチハイク横断、ペルーでのバックパッキング、カリフォルニア国立公園バックパッキングを敢行。世界各地の大自然に身を授け、その強さと寛大さを享受しつくす20代を過ごした。もともと自然が好きでやがて釣りに没頭し、カリフォルニアやアラスカをフライフィッシングで釣り歩いた。時にアメリカヒッチハイク横断の際にはホームレスと野宿をしたり、ネイティブアメリカンと旅をしたりとアメリカの大自然遊びを満喫した。雄大な自然と共鳴する暮らしを通して、尊い自然を破壊することで成り立つ経済成長に憤りを感じ、自然を守り、より良くすることに自分の存在を費やすと決め、同時に手段としてビジネスを選ぶことを決意。帰国後にパタゴニアで勤務しながらフリーライターとして活動後、野生鮭の保全保護の活動を世界で行う国際環境NGO「Wild Salmon Center」の日本コーディネーターとして勤務。そこから鮭だけはなく全魚種を対象にしたサステナブルな漁業を推進する活動にシフトし、国際環境NGO「Ocean Outcomes」の創立メンバーとして日本支部長に就任、その後2021年に株式会社UMITO Partnersを設立した。

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サステナブルな漁業を推進するUMITO Partners

UMITO Partnersはサステナブルな漁業・養殖業への転換を促すために、大学や行政の調査機関と協業したデータの解析、MSC認証の取得サポート、卸先調達支援をはじめとしたさまざまな関連事業を行っている。サステナブルな漁業とは、魚を獲る量よりも生まれる量が多い状態が保たれ生態系への影響が最小限に抑えられていること。そのために漁業の管理を工夫し、海の状態を改善し、魚介類にとって最良な成長環境を整えることで状態の良い海産物の収穫へとつなげていく。サステナブルな漁業で育てられた美味しい海産物は、持続可能な営みと自然の恵みに心から敬意を払うガストロノミーで花開く。卸先が広がることで漁師の生活が豊かになるだけでなく、海を守るという使命や貢献への想いは漁師ひとり一人の人生のクオリティを底上げする。現在では東京都内を中心に有名レストランやホテルを含め約30店舗以上がUMITO SEAFOODの取扱をしている。さらにUMITO Partnersは、現場の声を政治に届けるべく漁業法の改正に取り組んでいたこともあり、2023年には事業を通じて環境をより良くしている点が大きく評価され、B Corpも取得している。

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よりよい海づくりに最も重要なのは海上に立つ漁師。彼らの価値を高めるのが使命

サステナブル漁業へとシフトを促すことの難しさは、漁場によって仕組みも文化も異なることだ。土地が違えば価値観も風習も違う。そもそも、サステナブルな漁業そのものが知られていない上に、そのみち10数年の漁師達に向かって10年先を見据えて日々の慣習を変える提案をするハードルは高い。「明日の飯も食えるかわからんのに、なんで10年後のことが考えられるんや!」と嘆く漁師ひとり一人に、村上さんはじっくりと向き合う。意気投合したら膝を突き合わせ、酒を酌み交わし、何ヶ月も何年もかけて信頼を得る。いつかサステナブル漁業の素晴らしさを理解し、それが本当に自分のやりたいことだ、と漁師ひとり一人が自ら強い思いを持つようになるまで「『北風と太陽』の太陽のように」彼らの足もとを照らし続ける。「自発性を持った人は、僕たちがいなくなってもやり続ける。それが理想なんです。お金が理由で始めるとそれが理由で辞めることもできてしまう。長い目線で見て一過性の起爆剤ではダメなんです」

漁をする人への現場主義を貫き北海道から沖縄まで日本全国を駆け回る村上さんは、現在すでに4箇所以上のMSC・ASC認証の取得に成功している。
「海を守ることが日常的にできるのって毎日海を利用する漁師さんなんですよ。だから僕たちは漁師さんが変わっていくことと、そういうイケてる漁師さんを応援すること、応援する人を増やすこと。一見遠回りに見えるけど、それが、海を良くする一番の近道なんじゃないかなと思うんです。彼らを口説いたり、人脈を広げるのは時間がかかる。大変なことだけど、そこですね、僕たちの注力してるのは」

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Okucho Oyster

海からシェフへ。Ocean to Tableを繋げるための機会づくり

持続可能な漁業をつなぐための活動は海だけではない。彼ら(生産者)の顔が見える新鮮で安全な魚介類を提供するために、ここぞというレストランには足繁く通い、取り扱いの機会を創生している。さらに、ワークショップを通じて漁師からシェフ、レストランからお客様へと繋げるため、文化育成の機会を一つひとつ丁寧に設けてきた。現在、取引のあるレストランの一部は、清澄白河のThe Blind DonkeyやCIMI restorantといった、シェ・パニーズを系譜とする各名店から、白金台のLIKE、池尻大橋のMassif、池袋のCadota、渋谷のd47食堂、マンダリンオリエンタル東京、ヒルトン東京ベイ。いずれも、生産者への敬愛や、自然を持続可能にしたいという共感度が高いところばかり。食材を獲ってくれる人、作ってくれる人といった人へ敬意を払うことのできる人達だけだという。
「漁師さん達は、自分たちの魚を喜んで大切にしてくれる人たちがいると知るとモチベーションが上がっていきます。それに、隣の人が良いことをしていると真似したくなるもの。いい活動をして捕れたものが、飲食に直接繋がっている事例を見て他の漁師さんもやりたくなるような波及効果をうまくつなげていきたいんですよね」

Ventaglio - 瞬〆スズキのブレゼ
d47食堂 - 邑久カキ定食
blind donkey - スズキカルパッチョ
LIKE - 生タコのカルパッチョ 豆苗と青山椒
blind donkey - 夏のミズダコサラダ
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お金は世の中を良くすることも、狂わせることもできる

「ウミとヒトとのポジティブな関係を作っていきたい」。このパーパスのもと走り続けるUMITO Partners。人と地域社会の問題に向き合う村上さんがデザインしてきた仕組みは、属人的で原始的な世界にどっぷりと浸かることで、はじめてコマをひとつ進める事ができるほど人間臭いものだ。魂の交換とも言える、むせかえるような人間同士のぶつかり合いは、生を司るものの緊迫した現場特有の雰囲気の中では当然のマナーだ。同時に、自然から命をいただくということはそういうことだということを思い出させる。
 
ターニングポイントになった出来事の1つである、ペルーのチチカカ湖に訪れたときの話をしてくれた。「葦の草の上で何千年と変わらない普遍的な暮らしをする人たちの家にホームステイをしたんです。変わらない歴史を感じたくて行ったんですが、そこでは自分はただの観光客だと気づいて愕然としたことがあったんです。別れ際、また観光客を連れてきてね、と言う彼らは以前まで石鹸を自分たちの尿から作るような自給自足を徹底して生きていた。貨幣経済に入ったきっかけは、訪れたひとりのドイツ人が飴と石鹸をおみやげに渡したことだったそうです。ひとりの善意が何千年の歴史の歯車を変え、伝統を一瞬で壊すことになった。もちろん、彼らはそれで幸せかもしれないし、変わらないでいて欲しいというのは僕の勝手なエゴです。ただ、お金の使い方や稼ぎ方ひとつで世の中良くも悪くもできる、それだけの力を持っている。だからそれを善きに使いたいし、ビジネスを通じて何をしたいのかということを大切にしたいと思っています」

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2024年にはサステナブルな漁業を目指し、工夫して漁業を行う漁師の魚を食べることで、消費者や飲食店も一緒に海をより良くできる取り組みとして、オリジナルシーフードブランドUMITO SEAFOODをローンチ。北海道の「北るもい漁協樽流し部会」が水揚げしたミズダコを使ったパスタソース、鹿児島県「江口漁協・吹上浜の未来を考える漁業者たち」が水揚げしたツキヒガイと同じ北海道のミズダコを使ったアヒージョを展開している。サステナブルな海を作り漁業を応援し、おいしい海産物をレストランから食卓まで届ける。村上さんの海の“美味しい革命”は続いていく。

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profile

UMITO Partners 代表取締役 村上春二

福岡県出身。サンフランシスコ州立大学にて自然地理学とビジネスを先行し、帰国後パタゴニアに日本支社で勤務しながらフリーランスライターとして活動。その後、NGO「Wild Salmon Center」の日本コーディネーターとして勤務し、2015年国際環境NGO「Ocean Outcomes」の創立メンバーとして日本支部長に就任。2018年に「株式会社シーフードレガシーと合併」、取締役副社長/COOとしてサステナブル・シーフードや漁業・養殖業に関わる事業部署を統括。2021年「株式会社UMITO Partnes」設立。Asia Pasific FIP Community of Practice Council member、養殖業成長産業化推進協議会委員
 
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