Design / Art

Research

2024.12.29

海に漂着した“プラゴミ”で光を生み出す、リサイクラーさいとうとおるの草の根アート活動「Pimlico Arts JAPAN」

photo & videographer: SHOTA KONO
interview by: MASUMI SASAKI

海に漂着した“プラゴミ”で光を生み出す、リサイクラーさいとうとおるの草の根アート活動「Pimlico Arts JAPAN」

海に漂着したプラスチックなどの廃材を使って、ランプのアート作品を生み出すリサイクラー・クリエーター、さいとうとおる。彼は、負の産物とされるプラスチックゴミを否定的な面だけでは捉えていない。
「人間が作り、使い捨てたプラスチックが、自然の力で研磨され、色褪せヤレて再び人間の手に戻ってくる。一体どこからどうやって流れ着いたのかを想像すると、ゴミがゴミでなくなり、宝物に見えてくる」。
前向きな気持ちで拾い集めたゴミだからこそ、チャーミングなアート作品へと昇華できるのかもしれない。さいとうとおるにしかできないリサイクル、循環型アートプロジェクトの形とは。

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拾いもの好きが高じた、生粋のリサイクラー

リサイクル・アップサイクルをテーマに「Pimlico Arts JAPAN(ピムリコアーツジャパン)」としてアート活動を展開するさいとうさんだが、本格的に作品制作を始めたのは、4、5年前のこと。それまでは、手を動かすことが好きだったことから、料理人、鞄デザイナーと、気の赴くままに歩んできた。一方、海は、子供の頃には家族でキャンプに訪れ、20代にはサーフィン、現在も葉山に暮らすように、常に身近であり、生活の軸の一つだった。もともと環境問題やリサイクルには関心があったが、その時はそこと海洋プラスチックとが結びついてはいなかった。
 
子供の頃から、粗大ゴミ漁りやモノを拾うのが好きで、誰も見向きもしないような錆びたボルトや超小さくなるまで削られた鉛筆を拾っては、やれ具合にグッときて、その背景にあるストーリーに想像をめぐらせた。大人になった今でもゴミの山をみると心が踊るというからかなりの筋金入りだ。料理人をしていた時も野菜の皮、肉や魚の骨まで出汁に使い、できるだけ捨てないとか、鞄を作っていた時もできるだけ単純なパーツと構造で捨てる部分や無駄が出ないように四角いデザインにした。無駄をしない、捨てない、もったいないの精神はずっと自分の中のルーツとして存在していた。

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嫌われものを可愛いヤツにアップサイクル

身近だった海と持ち前のもったいない精神が結びつく、大きなターニングポイントとなったのが、ヨーガン レールの展示だった。2015年に開催された展覧会「ここは誰の場所?」(東京都現代美術館)で、石垣島で暮らすヨーガン レールが、島の海岸が大量のゴミで汚染されていく危機的な現実に警鐘を鳴らすべく地球環境に対するメッセージとして、それらを使って美しく連なるライトの幻想的なインスタレーション作品を展示した。それを見たさいとうさんは、「強烈なインパクトでした。カラフルで美しいという、僕の好きな世界がそこにありました」と、漠然とやりたいと思っていたリサイクルの形に気づかされる。
 
以来、海辺にゴミ拾いに行っては、鞄製作の傍ら海洋プラスチックでランプを作るようになっていく。さらに、数年後のコロナパンデミックが、結果、リサイクラーとして本格的に始動していく後押しとなった。「経済的にも状況的にも鞄作りはビジネスとして難しくなり、徐々にやる気もなくなってきました。むしろ作品を作るほうが面白いし、未来や可能性があるように思え、アート作品を表現していこうと決めました」

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ヨーガン・レール氏の作品を模倣して作った最初の作品 ©PAJ

さいとうさんは、自ら主宰するアートプロジェクト「Pimlico Arts JAPAN(ピムリコアーツジャパン)」をベースに、フィジカル、デジタル、メディアなど様々なコンテンツでの作品を発表している。このネーミングの由来はというと、2009年ごろ、ワーキングホリデーで滞在したロンドンで最初にコミュニケーションを取った人物、エジプト人のアリが住み着いていたスクワットの名前、ピムリコアーツから頂戴したもの。アリとの出会いは後のリサイクルというアイデアに大きく影響を与えた。「時間を持て余している人のスキルをシェアして、物々交換ならぬ、スキル交換という人材のリサイクルという発想は面白かった。実際に場所を提供したり、人と人を繋ぎ、自分のことをリサイクラーと名乗っていましたが、その肩書きも勝手に継がせてもらいました」
 
ロンドンでリサイクルというテーマで何かやりたいと閃き、帰国後、ヨーガン レールの展示に衝撃を受け、コロナパンデミックで決意が固まった。こうしてリサイクラーさいとうとおるとして本格始動していく。
 
写真はロンドン時代のもの

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廃プラスチックとデジタルの親和性を探求する

とはいえ、海で拾ったプラスチックや漂流物でライトやオブジェを作るだけでは真似でしかない。どうやってそこにオリジナリティを見出したのか。
 
「鞄を作っていたときに通りがかった秋葉原電気街の雑多に積まれた電気部品のオタクな世界観も好きだったので、youtubeから学びなんとなく電気配線をいじる予備知識もあったことから、コンピューターと連動させてデジタルアートと組み合わせてみようと思いつきました。実際に繋いでみたらすごく相性が良かったんです」
 
どう相性がいいのかというと、プラスチックが広まった時代とデジタルが生まれた時代は近いからだと、さいとうさんは考える。10年ぐらいの違いはあるが、アニメやゲーム、合成繊維の服、それらはほぼ同時期に生まれて普及していった。プラスチックとデジタルの親和性はそこにある。
 
「高度経済成長真っ只中にプラスチックが生まれて、世の中が一気にカラフルになりました。それまで金属や木製だったカゴや桶など家の中にあるものが、プラスチックに代わっていく。僕らの世代は過渡期を体験していないから感じないけど、その時代を生きた人に話を聞くと多分当時の人は変化を目の当たりにして衝撃的だったと思うんです」
  
移り変わる時代感、プラスチックとデジタルの親和性を掘り下げた作品を制作することで自分らしい表現を築いた。映像ソフト、3Dソフトを次から次へと試し、独学で学び、見よう見まねで探求している。

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二層に分かれた世界とプラスチックが生む安寧の光に込めたメッセージ

アトリエに飾ってある新作『memoryPACKー記憶と記録のディバイス』もプラスチックとデジタルの融合を試みたライティングアート作品だ。ペットボトルキャップ、LANケーブル、パンデミックの終息とともに不要となったアクリルパネルなどの廃材を使用し、パンデミックをきっかけとして見えてきた社会の分断や、躍進するデジタルワールドと現実の対比に着想を得て作られた、まさにギークの腕の見せ所。
 
「二層に分かれたふたつの世界は、はっきりと見えてきた社会とモヤモヤとした曖昧な世界、わからないということへの恐怖、物事の裏と表、生み出された分断の世界を表現しています。LANケーブルは世界に張り巡らされたネットワーク、そして物理的な繋がりの喪失を象徴しています。キャップの羅列が生む淡い光は、新たな時代の PAX (ラテン語で平和、安寧の意) 。コロナに恐怖し怯え、自身を見直す機会を得た記憶と同時に、世界は常に激動の歴史の中を生きていることを忘れてはいけない」そんなさいとうさんのストーリーが込められている。

「memoryPACK」

プラスチックで心に届ける。Pimlico Arts JAPANのミッション

自分がヨーガン レールの作品に衝撃を受けたように、環境問題の諸悪の根源である廃プラスチックを素材に、可愛いものや楽しい体験へとアップサイクルすることで人々に刺激や気づきを与える。その活動の一環として子供たちとのワークショップも積極的に行う。そこには数ヶ月前に亡くなった父親への生前伝えられなかった感謝の思いもある。
「自分がDIYでものづくりしているのは、父親からの影響が大きくて、一緒に体験し過ごした時間はいい思い出になっています。成長してからは決して仲のいい親子ではなかったけど、いま僕がやっていることは、溶接工として働き、趣味で漫画を描いていた父親譲りだし、環境問題について考える姿勢も両親から受け継いでいる。だからワークショップでは、ものづくりを通じて親子の絆を深めるとともに、人間が作ったプラスチックが巡り巡って海に流れ着き、ペットボトルのキャップ一つにもストーリーがあるということを伝えています。 プラスチックは嫌われ者だけど、嫌いなだけで終わってほしくない。逆に問題に感じることで、何か違う新しいことを考えるきっかけを与えられれば」とさいとうさんは語る。
 
いくら科学者や専門家が声高に危機感を訴えたとしても数字だけでは伝えきれない。実際に見て触って作って、面白い、楽しい、可愛い、美しいといった体験に伴う感情こそ、人の心を動かす原動力になっていく。そしてインタスレーションや参加型のアートイベントを通じて、未来への解決策を考える力を託し、豊かな地球を後世に繋でいくことが、Pimlico Arts JAPANのミッションなのだ。
 
さいとうとおるの地道な活動は始まったばかりだ。

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左から「Find Collect Light」、「Totem」、「Architecture」、「トキドキユークライン」
©PAJ

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スピーカー群 ©PAJ

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Pimlico Arts JAPAN / artist

さいとう とおる

1979年神奈川生まれ、葉山在住のクリエイター、リサイクラー。アートプロジェクト「Pimlico Arts JAPAN」主宰。CGの専門学校卒業後、オーストラリアやイギリスでの遊学。帰国後、料理家たかはしよしこのフードアトリエ S/S/A/W の立ち上げに関わり、ものづくりの楽しさ、素晴らしさを学ぶ。 退職後、オリジナルの鞄ブランド「KHISONOIO(キソノイオ)」をスタート。2015年、「ここはだれの場所?」展でのヨーガンレールの展示に衝撃を受け、サーフィンに出かけた海で海洋プラスチックごみなどを集め始める。2020年、「Pimlico Arts JAPAN (ピムリコアーツジャパン)」としてアート作品の制作と発表を本格的に始める。
 
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Masumi Sasaki

『流行通信』を経て、『Numero TOKYO』創刊メンバーとしてファッションフィーチャー、ウェブを担当。2019年よりフリーランスで活動中。エディター、クリエイティブディレクターとしてブランドのカタログ、ウェブサイト、オンラインストア等の編集、プロデュース&ディレクションを手掛ける。ファッションを軸に、アート&ライフスタイルなど気の向くままに縦横無尽に渡り歩く。また、ヴィーガンボディケアコスメ「TAO GARDEN(@taogarden_japan)」をかかりつけのトリートメントサロンのゴッドハンドセラピストとともに展開。遅咲きの韓ドラ好き。
 
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