全ての人にハグを。ニットブランド Les Tricots d’O が生み出す、ボーダレスな社会

ベルギー発のニットブランド、Les Tricots d’O（レトリコ ドール）。「Let’s hug you」というブランドメッセージを掲げる彼女たちの作る優しい手触りのニットは、着る人を包み込み、心躍らせる。そしてそのメッセージは、ファンだけでなく、作り手にも向けられる。創設者自身が病と向き合い紡いだその洋服は、経済状況が不安定な国の女性たちの雇用を生み出しているのだ。

オデットの生み出す、色の歓びに満ちたコレクション

創設者・オデットの病がきっかけで生み出されたLes Tricots d’Oだが、その経緯とは裏腹に、美しく前向きな意味合いを持つ。テーマとなるのは「色への愛」。カラフルな糸で紡がれた活気に満ちたそのニットは、彩りのある日常の賛歌とも言えるだろう。
　
Les Tricots d’Oは、オデットという愛称で親しまれるひとりの女性から生まれた。彼女が自身が病に伏しているとき、辛い毎日に彩りを添えるために編み物をしたことがLes Tricots d’Oの始まりだ。コレクションの共通点は、「色への愛」。オデットは矛盾の中に美しさを見つけ、モヘアといった高級な素材にもストリート風のグラフィティを施す。レモンシャーベットのようなセーターや、綺麗に2色で染め上げられたシャツ、複雑な色が混じり合って弾けるビビットなニットなど。まるでショーケースに並ぶアイスクリームのようにカラフルなバリエーションを持つLes Tricots d’Oの洋服は、それ単体で十分に目を引くが、着てみるとカジュアルからドレッシー、フェミニンなスタイルにも、しっくりと馴染む。そんなニットの彩りは、大胆不敵に境界線を越え、暗闇に光を刺す灯台として、前向きな気持ちを示している。

働く人の背中を押すニット

Les Tricots d’O の手編みを担っているのは、ボスニアヘルツェゴビナとトルコの女性たち。
“empowerment” についても関心を寄せ、様々な原因によって職に就くことが出来なかった彼女らの雇用を生み出している。
　
ブランドの“O” はオデットの頭文字であると同時に、“empOwerment” も意味するという。創業者ナタリー個人の願いを超え、Les Tricots d’O は編み手全員がその多彩な個性を豊かに発揮できることを目標とする。そのため、雇用方法にも目を向け、これまで職を得ることが難しかった女性を起用することで経済的自立を支援している。
オデットはすべての女性が個性的であるということを理解し、階級や地位を超え、優しさを必要としている人へ洋服を届けることに尽力する。こうして「Let’s hug you」というテーマのもと、着る人を抱きしめるように包み込むニットが生み出される。何よりも彼女たちは、編み物を通じて、工芸への愛で結ばれているという。
　
Les Tricots d’Oの洋服は、色とりどりの個性を持ちながらも、どんな人にも馴染み、前を向く勇気を与える。そして消費者や生産者という枠組みを超え、より豊かな社会を実現するため、日常への彩りを与える。「Let’s hug you」。それは境界を超えて届けられる、強くて優しいメッセージとも言えるだろう。