ストリート、ゴシック、パンクなどのスタイルがあるようにRICK OWENSというスタイルがあってもおかしくないほど、その妖艶な表現は強い影響力を放ち続けている。ファッションショーでは、全身を固めた世界中のファンがこぞってパリの会場へと駆けつける。教祖と仰ぐファンにとってはもちろん、ファッション界全体にとって目を離せない存在であるRICK OWENS。デザイナーのリック・オウエンスが創る世界観は、彼を取り巻く過去の環境、そして妻であるミシェル・ラミーとの出会いが大きく関わっている。これまで歩んできた軌跡と、彼の見る未来とは。
RICK OWENS クリエイティビティの根源
リック・オウエンスは、1997年にロサンゼルスで自身のブランドを立ち上げた後、2003年から現在に至るまでパリを拠点に活動をしている。黒色やくすんだダークカラーに、ドレープや異素材を組み合わせたアグレッシブなアイテムを世に送り続けてきた。シグネチャーアイテムとも言えるクロップドライダースジャケットに加え、アイコニックなバスケシューズが基になっているハイカットスニーカー。12cmヒールのキスブーツは、メンズサイズにも対応しており履く人に自信を与える。「男らしく」「女らしく」って何それ?と叫んでるかのような挑発的なファッションアイテムがRICK OWENSそのものである。
RICK OWENSのショーは、いつも壮大で華やかだ。それは、まるで映画を見ているかのような演出で、ブランドの作る独創的な世界へと引き込まれる。2024年9月に発表された最新の25年春夏ウィメンズコレクションでは、黒い衣装をまとったモデルがアーミーのように登場した。まるで映画のワンシーンかのような迫力はもちろんだが、オーバーサイズのジャケットやロングブーツ、風に靡く黒のマント、一点一点のアイテムのディテールも見逃せない。RICK OWENSは、わたしたちに驚きを与え続けてくれるブランドだ。
抑圧されていた時代の葛藤を凌駕する圧倒的な独創性
彼のアイデアやインスピレーションには、彼の幼少期の経験が大きく影響している。1961年にカリフォルニアで生まれ、厳格なカトリックの家庭で育った。父親はリックが幼い頃からテレビを禁止して教会に通わせた。従順な少年は思春期に突入すると反面教師かのように独特の美学で己の価値観を侵蝕していく。15歳の頃にデイビット・ボウイに憧れ、16歳の頃には「ロッキー・ホラー・ショー」を見ては心を奪われ、その世界は翼をひろげていった。
1981年に「Otis College of Art & Design(オーティス・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン)」で絵画を学ぶためにロサンゼルスに拠点を変える。実家を離れたこの頃、彼の父親は「ゲイという不道徳な存在の説明をしろ」といった内容の手紙を同性愛者支援団体、そしてリック自身にまで送りつけていたという。若い頃から、自らのセクシュアリティを認知し受け入れていたという彼にとって、父のこういった抑圧的な行動がどれだけの苦痛を与えたかは想像に難くない。
現在では、当時の父親の行動を「誤った愛」と受けいれ、父親も定期的にリックのショーを観に訪れては、アフターパーティでドラァグクイーンたちと会話をする姿が見られている。平凡な家庭の絵に描いたような美しい家族愛とは違うかもしれないものの、今よりセクシュアルマイノリティへの理解がなかった時代の過ちを昇華させるべく様々な背景に敬意を払いながら自らの作品へと落とし込んでいる。
Symbiosis(共生)2人で1つの大きな存在
幼少期の経験だけでなく、彼に大きな影響を与えた人物がいる。妻になるミシェル・ラミーとの出会いだ。1994年のRICK OWENS設立まで、彼女はロサンゼルスで自身のレストランを経営しつつ、ブランドの立ち上げをサポートした。2001年には、イタリア商社のEBAと契約し、ヨーロッパでの地位を確立する。ミュージシャンなどとの幅広い交友を持ち、アート・ファッション・食とジャンルレスに敬愛され自身もカルチャーアイコンであるミシェル・ラミーは、妻でありビジネスパートナーであり、親友として30年にわたって、彼をサポートし続けている。「ブランド設立当時は、ミシェルが興味を示した服の深掘りだけをしていた。彼女はいつだって僕に表現する方法を示してくれる」RICK OWENSというブランドが成り立っているのは、パートナーであるミシェル・ラミーの支えがあってからこそだ。
更なるインクルーシブな未来のために
RICK OWENSは環境保全を目的とした「ECO AWARE」というコレクションを立ち上げた。このコレクションは、できるだけ環境に負荷のかからない素材で作られている。持続可能な再生繊維とされる「セルロース」から作られたビスコースという素材は、FSC認証を受けており、繊維が責任を持った管理体制のもとで生産され森林破壊を起こさないことを約束されている。コットンはGOTS認定を受けたオーガニックコットンを使用しており、製造過程において有害な化学物質が使用されず、土壌や水の汚染を防いでいる。カシミアや糸はリサイクルされたマテリアルを再利用している。
また、同コレクションは可能な限りイタリアのコンコルディアで生産するように努めている。ローカルでの生産にこだわることは、雇用機会を与える上に、製造過程においての透明性が高くなるだけでなく、CO2の排出量の削減にもつながる。現在彼らのサステナビリティへの挑戦はメインコレクションへとどんどんと広がりを見せている。23年秋冬コレクションでは食用されているピラルクの皮をドレスに使用した。廃棄されている皮を使用することで、アマゾンのコミュニティの支援にも繋がった。
Vogue Japanとのインタビューで「ブランドの拡大よりも成長を重要視したい、偏見や差別問題について声をあげていきたい」と語ったリック・オウエンス。彼が牽引するサステナビリティに向けた美学は新しい時代に向けて多くの可能性のインスピレーションとなり、あらゆる人々にエネルギーや変化のきっかけを与えていくだろう。
writer
ATSUSHI NAKAYAMA
1995年生まれ。高知県出身。アメリカ留学後、オーストラリアでワーキングホリデーを経験。2024年Tender Party参加。サステナブルとファッション関連担当。時々モデル。時々キャットシッター。
BRAND NAME
Rick Owens
リック オウエンス
COMPANY NAME
SHOWROOM: Pred PR
ショールーム: プレッドピーアール
INFORMATION
環境保全を目的とした「ECO AWARE」コレクションを発表。リサイクル糸で作られたニットや製造過程において有害な化学物質が使用されていないGOTS認定のオーガニックコットンを使用
2024/11/06